目次
- 0.1 施工管理職の離職率が示す業界の構造的問題
- 0.2 理由1―恒常的な長時間労働が心身に与える深刻な影響
- 0.3 理由2―不規則な労働時間がもたらす生活リズムの崩壊
- 0.4 理由3―休日出勤と代休取得の困難さ
- 0.5 理由4―多様な業務への対応による精神的負担
- 0.6 理由5―建設現場特有の人間関係のストレス
- 0.7 理由6―頻繁な転勤と単身赴任の負担
- 0.8 理由7―給与水準と労働負荷のアンバランス
- 0.9 理由8―24時間365日の責任という重圧
- 0.10 理由9―継続的な学習と資格取得への負担
- 0.11 理由10―肉体的負担による健康リスク
- 0.12 理由11―DXツールによる業務効率化の可能性
- 0.13 理由12―BIMとデジタルツインによる業務改革
- 0.14 理由13―AIとRPAによる定型業務の自動化
- 0.15 理由14―モバイルアプリとウェアラブルデバイスの活用
- 0.16 ではどうしたら?施工管理人材の退職を防ぐための本質的なアプローチ
- 1 まとめ:施工管理人材の退職を防ぐために今すぐ始めるべきこと
施工管理職の離職率が示す業界の構造的問題

建設業界において施工管理職の人材不足は深刻な課題となっていますが、多くの企業が「給料を上げれば解決する」という短絡的な発想に陥っているのが現状です。確かに給与水準は重要な要素ではありますが、実際に現場を離れていく施工管理者たちの声に耳を傾けると、退職理由の本質は金銭的報酬だけでは説明できない複合的な要因によるものであることが明らかになります。
国土交通省の調査によれば、建設業就業者数は1997年の約685万人をピークに減少を続けており、2023年時点では約480万人まで落ち込んでいます。特に29歳以下の若年層の割合は全産業平均と比較しても低く、入職者よりも離職者が多い状態が続いています。この人材流出の背景には、施工管理という職種特有の働き方や職場環境に関する問題が横たわっています。
施工管理職は建設プロジェクトの成功を左右する重要なポジションであり、工程管理、品質管理、安全管理、原価管理という四大管理を担当します。現場監督として作業員や協力会社との調整を行い、発注者との折衝も担当するなど、極めて責任の重い役割を果たしています。しかし、この重責に見合った労働環境が整備されているかというと、残念ながら多くの現場で改善の余地が残されているのが実情です。本記事では、施工管理人材が実際に退職を決断する際の真の理由を深掘りし、給与以外の要因がいかに大きな影響を与えているかを明らかにします。そして、業界全体でこの課題にどう向き合うべきか、具体的な解決策とともに考察していきます。
理由1―恒常的な長時間労働が心身に与える深刻な影響

施工管理職の退職理由として最も頻繁に挙げられるのが、恒常的な長時間労働による心身の疲弊です。建設業界全体の年間実労働時間は全産業平均と比較して約300時間も多く、これは月換算で約25時間、つまり毎月3日分以上の労働時間の差に相当します。施工管理職はその中でも特に長時間労働を強いられる職種であり、朝は作業員よりも早く現場に到着し、夕方は全員が帰った後も事務作業や翌日の準備に追われるという日常が続きます。この長時間労働の問題は単に労働時間が長いというだけでなく、その常態化によって私生活が犠牲になるという点にあります。
家族との時間が取れない、趣味や自己啓発の時間が確保できない、十分な睡眠が取れないといった状況が続くことで、身体的な疲労だけでなく精神的なストレスも蓄積していきます。特に子育て世代の施工管理者にとっては、子どもの成長を見守る機会を失うことへの後悔や罪悪感が、退職を決断する大きな要因となっています。
現場作業は日中に行われるため、施工管理者は作業時間中は現場巡回や立会い、作業員や協力会社とのコミュニケーションに時間を費やします。しかし、書類作成や図面確認、工程表の更新、写真整理、報告書作成といった事務作業は、作業時間外に行わざるを得ません。さらに発注者や設計事務所との打ち合わせ、近隣住民への説明会、安全パトロールへの対応なども加わり、結果として早朝から深夜まで働き続けることになります。この状況を改善するための働き方改革関連法により、建設業にも2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されました。しかし、法令遵守のために単に労働時間を削減しようとすると、今度は業務が回らなくなるという新たな問題が発生しています。
根本的な業務プロセスの見直しや効率化なくして、単に労働時間だけを制限しても現場の負担は増すばかりです。長時間労働による健康被害も深刻で、過労死ラインとされる月80時間を超える時間外労働が常態化している現場も少なくありません。睡眠不足による集中力の低下は、現場での事故リスクを高めることにもつながります。若手の施工管理者の中には、入社後数年で心身の不調を訴えて退職するケースも増えており、業界の持続可能性を脅かす要因となっています。
理由2―不規則な労働時間がもたらす生活リズムの崩壊

施工管理職の困難さは労働時間の長さだけでなく、その不規則性にもあります。建設工事は天候に大きく左右されるため、雨天で作業が中止になった場合は別の日に振り替える必要があり、当初の予定通りに進まないことが常態化しています。また、工期遅延が発生した場合には、休日出勤や夜間作業でカバーせざるを得ず、施工管理者の生活リズムは容易に崩れてしまいます。特に都市部の工事では、交通量の多い時間帯を避けるために夜間工事を余儀なくされるケースが多くあります。道路工事や鉄道関連工事では、終電後から始発前までの限られた時間内に作業を完了させる必要があり、施工管理者は深夜から早朝にかけて現場に張り付くことになります。このような夜間工事と日中の事務作業や打ち合わせが組み合わさると、昼夜逆転の生活が続き、体内時計が乱れて健康を害する原因となります。さらに、緊急対応が必要な場合には、予定外の出勤を求められることもあります。台風などの自然災害時には現場の安全確保のため、休日や深夜であっても駆けつけなければなりません。また、近隣からの苦情対応や突発的なトラブルが発生した際にも、施工管理者が最前線で対応する必要があります。このような予測不可能な労働時間の変動は、家族との予定を立てることを困難にし、私生活の質を著しく低下させます。不規則な労働時間は睡眠の質にも深刻な影響を与えます。人間の身体は一定のリズムで睡眠と覚醒を繰り返すことで健康を維持していますが、勤務時間が日によって大きく変動すると、十分な睡眠時間を確保していても疲労が蓄積していきます。慢性的な睡眠不足は判断力の低下を招き、現場でのミスや事故につながるリスクを高めます。また、不規則な生活は食生活の乱れにもつながります。決まった時間に食事を取ることができず、コンビニ食やファストフードで済ませることが多くなり、栄養バランスが崩れます。これが生活習慣病のリスクを高め、長期的な健康問題へと発展する可能性があります。特に若い世代の施工管理者は、将来の健康リスクを考慮して、より規則正しい生活が送れる職種への転職を選択するケースが増えています。
理由3―休日出勤と代休取得の困難さ

建設業界では、工期の遅れを取り戻すため、あるいは平日にできない作業を行うために休日出勤が頻繁に発生します。施工管理技術者は、休日であっても現場に立ち会わなければならないケースが多く、名目上は週休2日制を導入している企業でも、実際には月に1〜2日しか休めないという状況も珍しくありません。
特に問題なのは、休日出勤をしても代休を取得することが難しい点です。建設プロジェクトは複数の工程が並行して進むため、一つの現場が落ち着いても別の現場で対応が必要になるなど、常に何かしらの業務が発生します。結果として、代休を申請しても承認されない、あるいは承認されても実際には取得できないという状況が続き、疲労が蓄積していきます。
休日が取れないことの影響は、単に休息が足りないということだけではありません。家族との時間が持てない、子どもの成長を見守れない、冠婚葬祭に参加できないといった人生における重要な出来事を逃してしまうことへの後悔が、退職を決意させる大きな要因となっています。特に子育て世代の技術者にとって、子どもの学校行事や習い事の送迎に一切関われないという状況は、家庭内での軋轢を生む原因となっているのです。
理由4―多様な業務への対応による精神的負担

施工管理の仕事は、工程管理、品質管理、安全管理、原価管理という4大管理を中心に、実に多岐にわたる業務をこなす必要があります。朝礼での指示出し、現場巡回、職人への指導、協力会社との調整、発注者との打ち合わせ、設計図書の確認、施工図の作成、材料の発注、検査の立ち会い、写真撮影と整理、日報の作成、工程表の更新など、一日の中で対応すべき業務は数十項目に及びます。
これらの業務はそれぞれが専門的な知識を必要とし、かつミスが許されない重要なものばかりです。しかし現実には、一人の技術者がこれらすべてを同時並行で処理しなければならず、常にマルチタスクを強いられる状況になっています。このような環境では、一つひとつの業務に十分な時間と注意を払うことができず、常に何かに追われているという感覚が続きます。
特に若手技術者にとって、経験が浅い中でこれだけ多様な業務をこなすことは大きなプレッシャーとなります。先輩や上司に相談したくても、周囲も忙しく十分な指導を受けられない、自分で調べようにも時間がないという状況の中で、不安と焦りだけが募っていきます。このような環境では、仕事へのやりがいを感じる余裕もなく、ただ日々をこなすだけで精一杯という状態に陥ってしまうのです。
理由5―建設現場特有の人間関係のストレス

建設現場では、元請け・下請け・協力会社など、様々な立場の人々が関わって一つのプロジェクトを進めていきます。施工管理技術者は、これらすべての関係者との調整役を担うため、人間関係のストレスに常にさらされています。職人気質の協力会社の方々との意思疎通、発注者からの厳しい要求への対応、社内の上司や先輩との関係など、あらゆる方向からのプレッシャーに対処しなければなりません。特に困難なのは、年齢や経験年数に関係なく、元請けの立場として協力会社の職人に指示を出さなければならない場面です。若手技術者が、自分の父親や祖父と同じ年齢のベテラン職人に指示や注意をすることは、精神的に大きな負担となります。経験豊富な職人からの反発や、時には高圧的な態度に直面することもあり、それが大きなストレスの原因となっています。また、建設業界には古い体質が残っている現場も多く、理不尽な叱責や威圧的なコミュニケーションが当たり前のように行われているケースもあります。現代の若い世代が育ってきた環境とのギャップは大きく、このような職場環境に適応できずに精神的に追い詰められ、退職を選択する技術者も少なくありません。人間関係のストレスは目に見えにくいものですが、日々蓄積されることで深刻なメンタルヘルスの問題につながる可能性があるのです。
理由6―頻繁な転勤と単身赴任の負担

建設業界では、プロジェクトごとに勤務地が変わることが一般的です。大手ゼネコンや中堅建設会社に勤める施工管理技術者は、数年ごと、場合によっては1年ごとに全国各地の現場へ転勤することを求められます。この頻繁な転勤は、個人の生活設計に大きな影響を与え、特に家族を持つ技術者にとっては深刻な問題となっています。
転勤に伴う問題は多岐にわたります。配偶者が仕事を持っている場合、転勤のたびに退職や転職を余儀なくされる可能性があります。子どもがいる場合は、転校による学習環境の変化や友人関係の断絶が生じます。これらの問題を避けるために単身赴任を選択すれば、家族と離れ離れの生活を強いられることになります。週末にしか家族に会えない、子どもの成長に立ち会えない、家族の病気や緊急事態にすぐに対応できないといった状況は、家族関係に大きなひずみを生じさせます。
特に近年は、共働き世帯が増加し、ワークライフバランスを重視する価値観が広がっています。このような時代の変化の中で、頻繁な転勤を前提とした働き方は、優秀な人材の確保と定着を困難にしています。転勤を命じられたことをきっかけに、家族との時間を優先できる他業界への転職を決意する技術者が増えているのです。
理由7―給与水準と労働負荷のアンバランス

施工管理職の給与水準について、決して低いわけではないという認識は重要です。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、建設・採掘従事者の平均年収は全産業平均と比較しても遜色ない水準にあります。しかし問題は、長時間労働や休日出勤を含めた総労働時間で時給換算した場合、他産業と比較して必ずしも高い水準とは言えないという点です。
多くの施工管理技術者が「給料が割に合わない」と感じるのは、絶対的な給与額の低さではなく、投入している労働時間や精神的負担に対する対価として十分ではないという相対的な不満です。月給が30万円であっても、月の残業時間が80時間を超え、休日出勤も頻繁にあるとすれば、時給換算では決して高い水準とは言えません。さらに、持ち帰り仕事やサービス残業が常態化している現場では、実質的な時給はさらに低くなります。
また、給与体系の不透明さも問題です。残業代が適切に支払われない、休日出勤の手当が十分でない、資格手当や現場手当が実態に見合っていないといった不満を持つ技術者は多いのです。特に若手技術者は、これだけ過酷な労働環境で働いているにもかかわらず、同世代の他業界で働く友人と比較して生活水準が変わらない、あるいは劣っていると感じることで、将来への不安と不満を募らせていきます。
理由8―24時間365日の責任という重圧

施工管理技術者には、工事の品質・安全・工程に対する重い責任が課せられています。現場で事故が発生すれば、場合によっては人命に関わる事態となり、施工管理者としての責任が問われます。品質不良があれば、建物の安全性に影響を与え、将来的に大きな問題を引き起こす可能性があります。工程の遅延は、発注者や関係会社に多大な迷惑をかけ、会社の信用を失墜させることにつながります。
この責任の重さは、勤務時間外であっても技術者を心理的に拘束します。休日であっても、現場で問題が発生すれば即座に対応しなければなりません。深夜であっても、緊急の連絡があれば対応が求められます。このような状況では、真の意味での休息を取ることができず、常に仕事のことが頭から離れない状態が続きます。
特に若手技術者にとって、この責任の重さは大きなプレッシャーとなります。経験が浅い中で重大な判断を迫られる場面も多く、ミスをすれば現場に大きな影響を与えてしまうという不安が常につきまといます。上司や先輩に相談できる環境があれば良いのですが、人手不足の現場では十分なサポートを受けられず、孤独に重圧と向き合わなければならないケースも少なくありません。このような精神的負担の蓄積が、若手技術者の早期退職につながっているのです。
理由9―継続的な学習と資格取得への負担

施工管理の仕事を続けるためには、建築士、施工管理技士、建設業経理士など、様々な資格を取得することが求められます。これらの資格は、キャリアアップや給与アップのためだけでなく、業務を遂行する上で必要不可欠なものです。しかし、日々の長時間労働の中で資格試験の勉強時間を確保することは容易ではありません。
資格試験の多くは年に一度しか実施されず、合格率も決して高くありません。一級建築施工管理技士の合格率は30〜40%程度であり、十分な準備期間と学習時間が必要です。しかし現実には、平日は深夜まで働き、休日も現場に出ることが多い状況で、まとまった勉強時間を確保することは極めて困難です。家族がいる技術者であれば、限られた休息時間を家族との時間に充てるか、資格勉強に充てるかという選択を迫られることになります。
さらに、建設業界は技術革新が進んでおり、新しい工法や材料、建築基準法の改正、BIM(Building Information Modeling)などの新技術への対応など、継続的に学び続けることが求められます。これらの知識習得も、日々の業務に追われる中で行わなければならず、技術者にとって大きな負担となっています。学習意欲の高い技術者ほど、現状の働き方では十分なスキルアップができないというジレンマを感じ、より良い学習環境を求めて他業界への転職を考えるケースもあるのです。
理由10―肉体的負担による健康リスク

施工管理職は、デスクワークだけでなく、現場での立ち仕事や移動が多い職種です。一日に何度も現場を巡回し、階段の上り下りを繰り返し、時には重い資材を運ぶこともあります。夏場は炎天下での作業となり、熱中症のリスクにさらされます。冬場は凍えるような寒さの中で現場監督を行わなければなりません。このような過酷な環境下での労働は、確実に身体に負担を蓄積させていきます。
特に問題なのは、長時間労働と肉体的負担が重なることで、回復する時間が十分に取れないことです。疲労が蓄積した状態で翌日も早朝から現場に立つという日々が続くことで、慢性的な疲労状態に陥ります。腰痛や膝痛などの関節痛、睡眠不足による免疫力の低下、ストレスによる胃腸障害など、様々な健康問題を抱える技術者が増えています。
30代、40代であっても、既に身体の不調を感じている技術者は少なくありません。このまま働き続ければ、50代、60代まで健康な状態で働き続けることができるのかという不安を抱えています。家族を養っていかなければならない年代でありながら、健康を損なってしまえば仕事を続けることができなくなるという恐怖が、より健康的に働ける職場への転職を決意させる要因となっているのです。
理由11―DXツールによる業務効率化の可能性

施工管理職の過重労働を軽減するための最も効果的なアプローチの一つが、デジタルトランスフォーメーション、いわゆるDXツールの導入です。建設業界は長らくアナログな業務プロセスに依存してきましたが、近年は施工管理に特化したクラウド型のプロジェクト管理システムが次々と登場しています。これらのツールは、図面管理、工程管理、写真管理、日報作成、検査記録など、施工管理技術者が日々行っている多くの業務をデジタル化し、大幅な時間短縮を実現します。
具体的には、現場で撮影した写真をスマートフォンやタブレットから直接クラウドにアップロードし、自動的に工程や部位ごとに分類する機能や、音声入力による日報作成機能、過去の施工データを参照して工程表を自動生成する機能などがあります。これまで事務所に戻ってパソコンで行っていた作業を、現場にいながらモバイル端末で完結させることができれば、移動時間や二度手間を大幅に削減できます。
また、クラウドベースのシステムを使用することで、関係者間の情報共有がリアルタイムで行えるようになります。図面の最新版が常に全員に共有される、変更事項がすぐに関係者に通知される、承認プロセスがオンラインで完結するといった機能により、確認や調整のための打ち合わせ時間を削減できます。国土交通省が推進するi-Construction(アイコンストラクション)の取り組みでも、ICT技術の活用による生産性向上が重点施策として掲げられており、DXツールの導入は業界全体の課題解決に向けた重要なステップとなっています。
理由12―BIMとデジタルツインによる業務改革

BIM、つまりBuilding Information Modelingは、建物の設計から施工、維持管理までのライフサイクル全体をデジタルデータで管理する手法です。3次元の建物モデルに、材料や性能、コストなどの情報を付加することで、施工前に様々なシミュレーションを行い、問題を事前に発見・解決することができます。これにより、施工段階での手戻りや変更を大幅に減らすことが可能になります。
BIMの導入は、施工管理技術者の業務負担を複数の面で軽減します。まず、図面の整合性チェックが自動化されることで、従来は技術者が目視で行っていた膨大なチェック作業が不要になります。配管や配線の干渉チェックなども、BIMソフトウェアが自動的に検出してくれるため、現場での手直しを防ぐことができます。また、3次元モデルを使用することで、複雑な納まりを協力会社の職人に視覚的に説明でき、コミュニケーションの時間と手間を削減できます。
さらに進んだ活用として、デジタルツイン技術があります。これは、現実の建設現場をデジタル空間に再現し、リアルタイムで工事の進捗状況を3次元モデルに反映させる技術です。現場に行かなくても、オフィスや自宅から現場の状況を確認でき、遠隔での指示や管理が可能になります。特に複数の現場を担当している技術者にとって、すべての現場を物理的に巡回する時間を削減できることは大きなメリットです。新型コロナウイルスの影響で普及したリモートワークの流れとも相まって、デジタルツイン技術は今後の施工管理の働き方を大きく変える可能性を秘めています。
理由13―AIとRPAによる定型業務の自動化

人工知能とRPA、つまりRobotic Process Automationの技術を活用することで、施工管理における多くの定型業務を自動化できます。例えば、AIによる図面チェックシステムは、過去の膨大な図面データを学習し、設計ミスや施工上の問題点を自動的に検出します。これにより、技術者が何時間もかけて行っていた図面チェック作業を数分で完了できるようになります。
日報や報告書の作成も、AIとRPAの活用領域です。現場で記録した簡単なメモや音声データをもとに、AIが自動的に定型フォーマットの報告書を生成する技術が実用化されています。また、過去の類似工事のデータを分析して、最適な工程計画を提案するAIシステムも登場しています。これらの技術は、技術者の経験と勘に頼っていた業務を、データに基づく客観的な判断でサポートし、若手技術者でも適切な判断ができる環境を整えます。
さらに、ドローンとAIを組み合わせた現場の自動巡回システムも実用段階に入っています。ドローンが定期的に現場を撮影し、AIが画像を解析して工事の進捗状況を把握したり、安全上の問題点を検出したりします。これにより、技術者が現場を隅々まで歩いて確認する時間を大幅に削減できます。特に大規模な現場や高所での作業確認など、物理的にアクセスが困難な箇所の確認にも有効です。これらの技術の組み合わせにより、施工管理技術者は本来注力すべき判断業務や調整業務により多くの時間を割くことができるようになります。
理由14―モバイルアプリとウェアラブルデバイスの活用

スマートフォンやタブレット向けの施工管理専用アプリは、現場での作業効率を劇的に向上させます。これらのアプリは、オフライン環境でも動作し、図面の閲覧、写真の撮影と自動分類、チェックリストの確認、関係者への連絡など、現場で必要な作業をモバイル端末一つで完結できます。以前は現場と事務所を何度も往復していた技術者が、現場にいながらほとんどの業務を処理できるようになり、移動時間の削減につながっています。
特に効果的なのは、音声認識技術を活用した機能です。現場では両手がふさがっていることも多く、端末を操作するのが困難な場面があります。音声で指示を出すだけで、写真撮影、メモの記録、関係者への連絡などができれば、作業を中断することなく必要な記録を残すことができます。また、音声入力で日報を作成すれば、帰社後にパソコンに向かって文章を打ち込む時間が不要になります。
ウェアラブルデバイス、特にスマートグラス(AR眼鏡)の活用も進んでいます。スマートグラスを装着することで、視界に図面や作業手順を表示させながら施工を確認できます。また、遠隔地にいる熟練技術者とビデオ通話しながら、自分が見ている映像を共有して指導を受けることも可能です。これにより、経験の浅い技術者でも、ベテランのサポートを受けながら適切な判断ができるようになります。このような技術の進化は、単に業務を効率化するだけでなく、若手技術者の不安を軽減し、より安心して働ける環境を提供する効果も期待できます。
ではどうしたら?施工管理人材の退職を防ぐための本質的なアプローチ

施工管理人材の退職を防ぐためには、給与を上げるだけでは不十分、働き方そのものを根本から見直す必要があります。ここまで見てきたように、退職の主な理由は長時間労働、予測不可能な労働時間、休日の確保困難、過度な責任、肉体的・精神的負担の蓄積といった構造的な問題にあります。これらを解決するには、経営者と現場管理者が一体となって、業務プロセスの抜本的な改革に取り組む必要があるのです。
最も重要なのは、DXツールの導入を単なる効率化の手段としてではなく、働き方改革の中核として位置づけることです。クラウド型の施工管理システム、BIM、AI、RPAといった技術を積極的に導入し、これまで人手に頼っていた定型業務を自動化・効率化します。しかしツールを導入するだけでは不十分で、それによって生み出された時間を確実に労働時間の削減につなげるという経営者の強い意志が必要です。効率化で浮いた時間を別の業務に充てるのではなく、技術者が定時で帰宅できる、休日をしっかり取れるという形で還元することが、人材の定着に直結します。
次に、適正な人員配置と業務分担の見直しが不可欠です。一人の技術者に過度な業務を集中させるのではなく、複数の技術者でチームを組んで現場を管理する体制を構築します。特に、事務作業を専門に担当するサポートスタッフを配置することで、施工管理技術者が本来の業務である現場管理に集中できる環境を整えます。また、現場ごとに繁忙期と閑散期があることを考慮し、柔軟な人員配置により特定の技術者に負担が集中しないようにします。
工程管理の適正化も重要な要素です。無理な工期設定は、結果的に施工管理技術者の長時間労働と休日出勤を生み出します。発注者や営業部門に対して、適正な工期を提示し、交渉する力が必要です。また、余裕を持った工程計画を立てることで、天候不良や突発的なトラブルが発生しても、技術者が休日を削って対応する必要がない体制を作ります。短期的な利益を優先して無理な工期を受け入れることは、長期的には人材の流出によって会社の競争力を失う結果につながることを、経営層が理解する必要があります。
労働時間管理の徹底と残業削減への取り組みも欠かせません。施工管理技術者の労働時間を可視化し、月の残業時間に上限を設定します。上限を超えそうな場合は、業務の優先順位を見直す、他の技術者がサポートに入る、場合によっては工程を調整するといった対応を組織的に行います。また、ノー残業デーの設定や、週に一度は定時退社を義務付けるといったルールを設け、確実に実行します。これは単なる建前ではなく、管理職が率先して実践し、定時退社した技術者を評価する文化を作ることが重要です。
休日の確保に関しては、完全週休二日制の実現を目指します。休日出勤が必要な場合は、必ず代休を取得できる仕組みを整え、代休の取得率を人事評価に反映させます。また、長期休暇の取得を推奨し、年に一度は一週間程度のまとまった休暇を取れる環境を整えます。家族との時間を大切にできる会社であることをアピールすることは、人材採用においても大きなアドバンテージとなります。
転勤・異動に関する配慮も人材定着には重要です。頻繁な転勤を前提とした人事制度を見直し、地域限定社員制度やエリア採用を導入します。結婚や子育てといったライフイベントに応じて、転勤の有無や頻度を選択できる柔軟な働き方を提供します。どうしても転勤が必要な場合は、十分な準備期間を設け、家族のサポート体制(引っ越し費用の全額負担、配偶者の就職支援、子どもの教育支援など)を充実させます。
メンタルヘルスケアの体制整備も忘れてはなりません。定期的なストレスチェックの実施、産業医や臨床心理士による相談窓口の設置、管理職向けのメンタルヘルス研修の実施など、技術者の心の健康を守る仕組みを作ります。特に若手技術者に対しては、定期的な面談を通じて悩みや不安を早期に発見し、適切なサポートを提供します。メンタル不調の兆候が見られた場合は、無理をさせずに休職や配置転換などの措置を迅速に取ることが、長期的な人材の確保につながります。
教育・育成体制の充実も重要な要素です。OJTだけに頼るのではなく、体系的な研修プログラムを用意し、段階的にスキルを習得できる環境を整えます。また、資格取得のための学習時間を業務時間内に確保したり、資格取得に対する報奨金制度を充実させたりすることで、技術者のキャリア形成を支援します。先輩技術者によるメンター制度を導入し、技術的な指導だけでなく、キャリア相談やメンタル面でのサポートも行える体制を作ります。
職場のコミュニケーション改善も見逃せません。上司や先輩との風通しの良い関係を築き、困ったときに相談しやすい雰囲気を作ります。理不尽な叱責や威圧的な態度を排除し、建設的なフィードバックと相互尊重を基本とするコミュニケーション文化を醸成します。定期的なチームミーティングや社内イベントを通じて、組織の一体感を高め、孤立感を感じさせない職場環境を作ることも効果的です。
評価制度の透明化と公平性の確保も人材定着に寄与します。長時間労働や休日出勤の多さではなく、業務の質や効率性、チームへの貢献度を評価する仕組みを作ります。また、評価基準を明確にし、なぜその評価になったのかを丁寧にフィードバックすることで、技術者が自身の成長を実感できるようにします。頑張りが正当に評価され、キャリアアップにつながるという実感が、モチベーションの維持と長期的な定着につながります。
経営層と現場のコミュニケーションも重要です。経営者が定期的に現場を訪れ、技術者の声を直接聞く機会を設けます。現場の実態を把握せずに経営判断を下すのではなく、技術者が抱える課題や改善提案を真摯に受け止め、具体的なアクションにつなげます。働き方改革は単なるスローガンではなく、経営の最重要課題として位置づけ、継続的に取り組む姿勢を示すことが、技術者の信頼を得るために不可欠です。
これらの取り組みを総合的に実施することで、施工管理職は過酷な労働環境から、やりがいを持って長く働き続けられる職場へと変わっていきます。一つひとつの施策は決して新しいものではありませんが、本気で実行するかどうかが、人材の定着率に大きな差を生み出します。人材不足が深刻化する建設業界において、働きやすい環境を提供できる企業こそが、優秀な人材を確保し、持続的な成長を実現できるのです。
まとめ:施工管理人材の退職を防ぐために今すぐ始めるべきこと

施工管理人材の退職理由は給料の問題だけではありません。長時間労働、不規則な勤務時間、休日の確保困難、多岐にわたる業務による精神的負担、人間関係のストレス、頻繁な転勤、過度な責任、継続的な学習負担、そして肉体的な疲労の蓄積といった、複合的な要因が技術者を退職へと追い込んでいます。これらの問題は、建設業界が長年抱えてきた構造的な課題であり、一朝一夕には解決できませんが、だからこそ今すぐ取り組みを始める必要があります。
人材の退職を防ぐための解決策は明確です。第一に、DXツールやBIM、AI、RPAといった最新技術を積極的に導入し、定型業務を自動化・効率化することで、技術者の労働時間を実質的に削減します。第二に、適正な人員配置と業務分担の見直しにより、一人の技術者に過度な負担が集中しない組織体制を構築します。第三に、無理な工期設定を避け、余裕を持った工程計画を立てることで、恒常的な残業や休日出勤を防ぎます。第四に、完全週休二日制の実現、長期休暇の取得推進、転勤への配慮など、ワークライフバランスを重視した働き方を提供します。第五に、メンタルヘルスケア体制の整備、教育・育成の充実、評価制度の透明化など、技術者が安心して働き続けられる環境を整えます。
これらの施策に共通するのは、経営層の本気の姿勢です。働き方改革を単なるスローガンではなく、経営の最重要課題として位置づけ、継続的に投資と改善を行う覚悟が求められます。短期的には設備投資や人件費の増加につながるかもしれませんが、優秀な人材が定着し、組織の生産性が向上することで、長期的には企業の競争力強化につながります。人材不足が深刻化する建設業界において、働きやすい環境を提供できる企業だけが、これからの時代を生き残ることができるのです。
施工管理技術者は、建設プロジェクトの成功に不可欠な存在であり、その専門性と経験は企業の貴重な資産です。彼らが安心して長く働き続けられる環境を整えることは、企業の社会的責任であると同時に、持続的な成長のための戦略的投資でもあります。給与を上げるだけでは人材は定着しません。真に必要なのは、技術者一人ひとりの人生を尊重し、健康で充実したキャリアを築ける職場を提供することです。その実現に向けて、今日から具体的なアクションを起こすことが、建設業界の未来を切り開く第一歩となると私は思います。
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テキストのやりとりや写真・図面の共有もBUILDY NOTEのメッセンジャー機能で簡単に。さらに通知で工程の開始/終了確認の抜け漏れもなし。
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仕事台帳・顧客台帳機能
仕事台帳も顧客台帳もBUILDY NOTEで一元管理でき、施工管理機能と原価管理機能のすべてに紐づくので、情報共有が簡単になります。
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原価管理機能
実行予算作成も原価管理もこれひとつ。作成した予算は1クリックで社内稟議・承認。原価は工事の進行とともにリアルタイムで管理可能。
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受発注機能
受発注もペーパーレス化し、1クリックで協力会社へ送付完了。発注書を封筒に入れる手間や郵送費はなくなり、自社と協力会社のどちらも受発注業務を効率化できます。
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入金・請求・支払管理機能
顧客からの支払いや協力会社からの請求書・支払いを一元管理。月末の請求書仕分けや支払い処理にかかる時間と手間を大幅削減できます。
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顧客見積作成機能
原価を意識しながらお客様への見積作成が可能。さらに原価集計、予算管理、電子受発注までまとめて行えます。
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開発チームの想い